肋間神経痛(ろっかんしんけいつう)


Q.肋骨あたりで、突然痛みを感じたことはありませんか?

堪えられないほどの痛みではないし、しばらくたつと治まった。たまにしか痛まない。この程度だと、ついついそのままにしてしまいますね。

 

Q.では、が、急に苦しくなったことはありませんか?

これは、驚きますね。何か、危険な病気ではないかと不安になります。

 

A.これらは、どちらも「肋間神経痛」の可能性があります。

 

聞きなれない名前ですが、病名ではありません。
痛みの症状のひとつです。しかし、痛みを感じるには、なんらかの原因があります。また、「肋間神経痛」の痛みは、他の病気の症状とよく似ていることがあります。

ですから、その痛みは、単なる「肋間神経痛」であるのか、ないのか。「肋間神経痛」ならば、どんな原因があるのかを、きちんと見極めておくことが、隠れた危険な病気を見逃さないために、とても大切です。

今回は「肋間神経痛」について、詳しくお話します。

 


「肋間神経痛」とは

「肋」は、肋骨を指します。一般的には、あばら骨と言いますね。肋骨は、背中から胸を覆うように、左右12本ずつあり、胸部や一部の腹部の内臓を、外部の衝撃から守っています。

そして、この肋骨に沿って、「肋間神経」が走っています。
この神経に沿って痛みを感じることを、「肋間神経痛」と呼びます。主に、胸や、わき腹が痛みます。背中や、わきの下の場合もあります。

一般的な「痛み」のしくみは、「身体のあちこちにある痛みセンサーが、外傷などに反応して、信号を送り、末梢神経を通って、脳に伝わる」というものです。しかし、痛みを伝える神経の「過剰反応」によって起こる痛みというのがあります。神経そのものが傷ついた場合などに起こります。「肋間神経痛」はこれに当たります。痛みの症状は、個人差が大きいので、一概に言えませんが、以下の痛みの特徴があります。

 


「肋間神経痛」のよくある痛みの特徴

 

☑深呼吸をすると、胸が痛い。

☑寝返りを打つと、痛い。(ちょっとした姿勢の変化のときに痛む)

☑突然、背中やわき腹あたりから、肋骨・みぞおちのあたりが、刺さるように痛い。

☑左右の片側だけが痛い。(左側が多い)

☑急激に短時間だけ痛む場合と、痛みが続く場合がある。

☑ピリピリする痛み・さすように痛い・しびれるような痛み。

 

また、突然、胸が痛むといっても、心臓の病気(狭心症・心筋梗塞)とは区別がつきやすく、身体をひねる・曲げる・呼吸をするなど、ちょっとした姿勢の変化によって、痛みが引き起こされることがほとんどです。

しかし、中には、緊急で対応が必要なものもありますので、今までにない胸痛がおきたときは、早めに、呼吸器科・内科・循環器科などの医療機関で、きちんと検査されることをおすすめします。

 


病院での肋間神経痛の検査と診断

検査には以下のようなものがあります。

・問診       (痛みの部位・頻度の確認)
・心電図      (狭心症・心筋梗塞を判断)
・胸部レントゲン  (肺炎・胸膜炎を判断)
・胸部CT・胸部MR (腫瘍判断)

⇓⇓これらの検査によって、以下の病気が発見されることがあります⇓⇓

*狭心症(きょうしんしょう)
*心筋梗塞(しんきんこうそく)
*逆流性食道炎(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)
*気胸(ききょう)
*肺塞栓(はいそくせん)

 


「肋間神経痛」と似ている、胸の痛みが起こる主な病気

*狭心症(きょうしんしょう)

心臓に酸素や栄養を送る血管(冠動脈)の内側が部分的に細くなり、血流が悪くなり、一時的に胸痛が起こる病気。数分~15分程度で、胸痛は治まりますが、一日何回もある場合は危険です。

 

*心筋梗塞(しんきんこうそく)

心臓に酸素や栄養を送る血管(冠動脈)が完全にふさがり、心臓の細胞が障害を受ける病気。心筋梗塞の胸痛は、時間が経過してもおさまらないのが特徴です。

 

*逆流性食道炎(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)

みぞおちや胸に痛みを感じるとともに、胸焼けや胃もたれに症状があります。治療の緊急性は低いですが、慢性化すると、がんなど、深刻な状態になることがあります。

 

*気胸(ききょう)

肺炎や外傷によって、肺が破れ、肺の外側、胸膜との間に空気がたまってしまう病気。原因不明の場合は、10~20代のやせ型の男性に多く、タバコや寝不足など、生活習慣のストレスによるものといわれている。

 

*肺塞栓(はいそくせん)

心臓から肺へ血液を運ぶ血管(肺動脈)に血の塊(血栓)などがたまり、血流れが悪くなったり、つまってしまったりしてしまう病気。

ほとんどが脚部の静脈にできた血栓によるもので、エコノミー症候群とも呼ばれています。呼吸困難を伴い、息を吸う時に胸が痛む特徴があります。

突然死も起こる場合があり、緊急性の高い病気です。肥満・寝たきり・手術後などが、大きな要因となっています。

 


肋間神経痛ですねと言われたら

はじめに、「肋間神経痛は、病気でなく、症状。」とお話しました。
では、何によって、その症状が起こっているのか。その原因となる、病気があるかないかを、まず調べることが大切です。

病気がはっきりわかれば、その治療を行ないます。病気を治療することで、肋間神経痛という症状を、やわらげたり、無くしたりしていきます。

 

 ①原因がはっきりわかるもの 

◎感染症

【帯状疱疹】
一度、水ぼうそうにかかると、ほとんどの方は、神経の中に水ぼうそうのウイルスが
潜伏した状態になります。
そのウイルスが、疲れやストレスなどで抵抗力が落ちた時に動き出し、
神経を伝わって皮膚に出て、水膨れを作ります。
帯状疱疹の後遺症:数ヶ月~数年に及ぶ➡ 抗ウイルス薬を飲んで治療消炎鎮痛剤など

◎骨や筋肉の異常
肋骨・脊椎などの骨折の後遺症・ 椎間板ヘルニアなど:変形した骨や筋肉が、神経を圧迫したり、傷つけたりするために痛みを発症している

◎胸部手術の後遺症

◎がんの骨への転移

 

*原因がはっきりした場合:病院での治療

内科・循環器内科などを受診して、原因を特定します。
骨折や腫瘍が原因であれば、その治療を行います。
その他、原因が特定できれば、それにそった治療となります。

 

  ②原因が特定できない場合  

肋間神経痛の原因を調べても、これといって明らかな原因が見つからない場合があります。実は、このタイプの方が、とても多いです。

 

*原因がわからない場合:病院での治療

痛みを和らげることを目的とした、対症療法が中心です。
温熱療法、薬物療法(痛み止めの服用、消炎鎮痛剤の外用薬の処方)などがあります。

痛みが激しい場合は、神経ブロック注射
(痛みの原因となっている神経に局所麻酔の注射)を行います。
過敏になっている神経を麻痺させて、落ち着かせます。
それにより痛みが緩和されます。

 


薬物療法・ブロック注射の種類

   薬物療法   

(それぞれの副作用を考慮し、症状・体質により選んで処方されます)

・エヌセイズ(炎症や痛みを抑える非ステロイド性の薬(商品名:ロキソニンなど))

・アセトアミノフェン(痛みや発熱を抑える)

・プレガバリン(神経への鎮痛作用がある(商品名:リリカ))

・抗うつ薬(他の薬で、治療の効果がない場合に使われる)

・桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう):冷えがあり体力がない人に

・疎経活血湯(そけいかっけつとう):体力が中程度で慢性的な痛みに

・五積散(ごしゃくさん):冷えがあり慢性的な痛みや更年期障害など

・ビタミンB12:末梢神経の修復に有効)

 

 神経ブロック注射 

神経が受け取った痛みの信号は、脊髄を通って、大脳へ伝えられて、ようやく痛みとして認識されますので、脊髄に入る手前の神経に、麻酔をかけて、痛みが伝わるのを止めます。この処方は、術後に合併症がないとは言えません。また高度な技術を要しますから、経験豊かな整形外科・ペインクリニックで、十分説明を聞いたうえで、検討してください。

 

◎肋間神経ブロック

うつぶせの姿勢で、背中から、肋間神経の脊髄(せきずい)から出てすぐの場所に、
麻酔を打ちます。
神経の周囲に麻酔薬を注射して、神経を麻痺させる。
効果は、個人差があり、数日~数週間です。

 

◎硬膜外ブロック

硬膜(こうまく)とは、脊髄を取り囲む最も外側の膜のことで、
その外側のわずか数mmの空間=硬膜外腔(こうまくがいくう)に、
横向きの姿勢で背中から、麻酔を打ちます。
一時的に痛みを抑えるもので、1週間に1回程度。

血液をサラサラにする薬を飲んでいる方など、いろいろなケースで受けることができない方がいますので、十分な知識が必要です。

 


原因がわからないとき、病院以外でできること

 ☑内科、整形外科に行って検査をして、「どこも悪くありません。」と言われた。
 ☑こんなに痛いのだから、悪くないはずがないと思い、病院をいくつか変えてみた。
 ☑同じ答えしかもらえない。

ついには、
あとは心療内科へ行ってください。
と言われてしまった。

 

なんだか、あなたの痛みは、気のせいです。と言われているようで、つらいですね。
しかし、肋間神経は、筋肉に囲まれるように存在しているので、筋肉が硬くなることで、神経が圧迫されて、痛みがでることがあります。

筋肉は、動かしすぎ(疲労)や、逆に、ほとんど動かさないことで、硬くなります。
また、ストレスで血流が悪くなることでも、硬くなります。そして、背骨など、身体にゆがみがある場合も、神経は圧迫されます。(デスクワークが多い人、猫背の人は、身体がゆがんでいないか、要注意です。)

つまり、「肋間神経痛」は病気ではありませんので、日常生活の見直しを行い、身体全体のバランスを見直すことで、改善されることがあります。生活習慣を改善すること、ストレスを減らすこと、整体などの専門家に、身体全体のバランスを調整してもらうことは、とても有効です。

身体のゆがみは、自分では判断つかないと思いますので、ぜひ専門家にみてもらうことをおすすめします。その際には、日常の効果的なストレッチや、生活改善指導も受けられるところがいいですね。

 


自分でできる日常生活の改善

 入浴や、ストレッチをすることで、血液の循環をよくする。

 日頃から、なるべく保温に努め、身体を冷やさないようにする。

 衣類がすれることで、痛む場合もあるので、
  さらしや包帯を巻くなど、工夫をする。 

 人と話したり、出かけたり、趣味に没頭する時間をもつ。

 椅子に座る時間が長い人は、姿勢がくずれやすいので、
    途中休憩をとりながら、正しい 姿勢をとるように、気をつける。

 運動不足は、身体がゆがみやすいので、適度に軽い運動をする。

 神経修復作用の大きいビタミンB12を、とるように工夫する。

ビタミンは、飲酒・喫煙・過度な減量・外食中心の偏食により不足しがちになります。

 

ビタミンB12を多く含む食品

しじみ・あさり・はまぐり・カキなどの貝類

すじこ・いくら・いわし

牛・鶏・豚のレバー

やきのり

プロセスチーズ

 


おわりに

今回は「肋間神経痛」について、詳しくお話ししました。

今までにない激しい胸の痛みの場合は、必ず専門医で、隠れた危険な病気がないか、検査してもらってください。病気でない場合、原因が不明な場合は、ご自身の背骨や筋肉の状態を専門家でチェックしてもらうこと、同時に、日常生活の見直しを、ぜひおすすめします。

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